2017年のMONKEY

読書

あまり本の感想をまともに書かなくなってしまった…というかそもそもまともに本を読んでもいないのだが、『MONKEY』だけはずっと継続して読んでることもあり、読んだ印象を残しておきたいので、今年も3冊分まとめておく。

特集「ともだちがいない!」
巻頭は谷川俊太郎。ともだちがいない、いらない、亡い……ちっちゃい子から若い子から年寄りまで、性別も年齢もばらばらな断片。そういえば「ともだちがいない」という言葉から思い描いていたのは自分のことだけだった。同じ言葉で思い浮かべる顔は人によって違う。当たり前だけど、作者の引き出しが多い。
ひとつひとつはさらっと読んでしまうけど、気づくと自分のことを考えてとにかく何か語り出したくなっている。
今まで、現在、これから。そういうふうに人を動かす言葉。

感想からはずれちゃうけど、そういうふうにしてせっかく考えたことなのでついでに書いておく。

自分にとって友達とは何かというと、チェスタトンの短編の好きな言葉、
「友情は時間を蕩尽する」
やっぱこれに限ると思う。
共に長い時間を過ごした人。
なんか私にとっては、友達とは後になって定義するものだなー。思い返せばあれが友達だった、みたいな。
だからお友達紹介してって言われるといつも友達はいませんって答える。

それからエミリー・ミッチェルの短編が2つ。
店員のスマイルが数値化され評価に影響する世界とか、自分の娘が選んだおともだちロボットが、嫌いな大きな蜘蛛だったとか、SFのショートショートみたいな着想が、こまやかなディテールの描写ですんなり入れるし、説得力があってとても自然に読める。
ラストが登場人物にとっていいのか悪いのか迷うような、読み手の価値観が試される感じ。うまい短編書くなああと素直に感心する。

短編の後に村田沙耶香と伊藤比呂美がこれをどう読んだかというインタビューがあって、巻末の村上春樹のアンデルセン文学賞受賞スピーチも、アンデルセンの「影」の話をしていて、作家さんの「読みドコロ」を面白く読んだ。

あとはバロウズの「ジャンキーのクリスマス」が好き。

特集「翻訳は嫌い?」
柴田元幸の日本翻訳史講義が受けられるとなったら、参加費と交通費を払ってでも行くという人はいくらもいると思うけど、これを買うとそれの明治篇前半が載っててしかも好きな時に何度でも読める。ほんとMONKEYってサイコー。とステルスしてないマをする。

確かモンキービジネスの時も翻訳とついた特集号があったと思う。(翻訳増量号)
あれもめちゃ気合が入っていたが、あっちはすごいカッコいい短編がどーんどーんどーんと大ボリュームで載ってたのに対し、こっちはもっと翻訳という行為について、なんていうか母語で書かれたんではない小説を読むということについて、日本の翻訳の歴史とか、翻訳する人がどんな所に目を配ってるかとか、翻訳モノはまあ読む方だけど、普段は気にしたことないとこを改めて認識させられてかなり読み応えある号だった。

それから面白い試みもあった。
石川美南の短歌(英訳)を読んだケヴィン・ブロックマイヤーが、それを小説に「翻訳」した「大陸漂流」とか。
『たべるのがおそい』の2号にも、石川美南と宮内悠介の共作があったけど、石川美南の短歌はどんどん新しい物語を生むんだよなー。強い。
短歌の引用って迷うところだけど、それとその英訳があまりにも魅力的だったのでここで引用紹介させていただく。

陸と陸しづかに離れそののちは同じ文明を抱かざる話
A tale where two continents quietly separate and cease to share a common civilization.

それからリディア・デイヴィスの「ノルウェー語を学ぶ」は、ちょっとしかかじったことのないノルウェー語の小説を、辞書などを使わずに読む試みの記録。しかもダーグ・ソールスターのこれは小説なのか?と議論を呼ぶようなややこしく長大な何かを。元々複数の言語の素養があるからできることかもしれないけど、知らない言語を少ない手がかりから習得していく経緯はなかなか興味深かった。そして、そうまでして未知の言語の小説を読むということ。

あと小沢健二の「日本語と英語のあいだで」。息子さんが言葉を覚えて使いこなしていくことから始まる2つの言語にまつわる話は、音に注目していて新鮮であととてもかわいい。
この人の文章読むたびに好感をもつ。

小説では伊藤比呂美の「死んでいく人」が、決して感情的な書き方ではないのにほんとエモいとはこのことって感じで引きずられた。

「食の一ダース 考える糧」特集。
食がテーマの競作。今回は日本作家の短編が多めで、食テーマの短編っていってももちろんMONKEYだから、もやつくことがある毎日だけれどあったかいご飯を食べてほっこり~なんてことには当然ならず。読んだことない最近の作家さんのちょっと変な話がいろいろと読めて面白かった。
奇妙な話が色々で大変好みだったけど、中でも村田沙耶香、砂田麻美がとてもよかった。前者はまあ現実の範囲内で後者はちょっとSF的な設定なんだけど、語り口が逆っぽいというか…。
それから堀江敏幸と戌井昭人も面白かった。
それになんといっても、それぞれの短編につけられた食事の写真が、一見よくいうインスタ映え的な写真がどことなく不穏で、美味しそうとストレンジの絶妙な中間で、それぞれの短編に合っていて良かった。

食テーマの競作に前号から続く柴田元幸の「日本翻訳史明治篇」講義後半に、ボブ・ディランが『白鯨』と『西部戦線異状なし』と『オデュッセイア』を語るノーベル文学賞受賞講演の3本立て(+いつもの連載)という豪華仕様でした。