タイトルを聞けば誰もが知っている名前。
原作は読んでいなかったけれど、映画にもなっているし、ヴァン・ヘルシング教授の名前や大筋は知っているつもりでした。
改めて読もうと思ったのは、昨年紀田順一郎の『幻想と怪奇の時代』を読みまして、その中で筆者が「怪奇幻想文学への指向性を決定づけられた」というのがこの作品でした。これは読まずにいられますまい。
そして、期待は裏切られませんでした。
この作品は、登場人物たちの日記や手紙、電報から成っています。
日記といっても、ほとんど普通の三人称に近いのですが、それでも登場人物の視点が強調され、不安や高揚があり、また書かれなかったことをついつい深読みしてしまいます。
ドラキュラと戦うヴァン・ヘルシング教授ですが、なんとなく、この人もただのヒーローじゃないようで、怖いんですよね。
ドラキュラに翻弄され、嘆き悲しむ人たちの影で、こっそり笑っている気配がある。
盛り上がる山場も多いこの作品、忘れられないシーンは多々あります。カインを思わせる額の刻印、対決前に生きながらにして執り行われる葬式など。
いちばん好きなのは、「恐怖」がこれから来るのだという予告であり、まさに「恐怖」が今来たのだという宣言でもある、墓地に集まり奇妙な話を聞かせる老人たちと船長の日記の部分で、ええ、こういう恐怖の対象があやふやで予感に過ぎない場面に惹かれます。
あとは、ドラキュラ城に向かって旅をする場面が好きですね。言葉もうまく伝わらない現地の村人たちに魔除けの印をきられながらも馬で行く荒涼とした風景。

