『地図集』(董啓章)を読んだ。
「少年神農」は私的短編ベスト入り。
神話が最強の毒を探す少年と少女のロードノベルになっちゃうのも素敵だし、茶畑に戻った時なんかの描写もさらっと書いてるのにすごくいい。
後でページ数を確認して、読後感に対して少なくてびっくりした。濃密。
「永盛街興亡史」も好みだなあ。
3人の女と街の歴史、時間が混沌としてとてもいい。血の繋がりも心の繋がりも記憶も歴史も家も現在のアイデンティティも街そのものも静かに失われていく。
あーきゅん、うぇんしー、と女の名を声に出して静かに呼びかけたくなる。
「地図集」は地図を読むことは歴史を、物語を読むこと。
発想の面白さもあるけれど、ユーモアより香港という都市はこういうアイデンティティを生むのか、と気づかされる感じ。
遠い過去を語るような体裁だけど、切れば血が出そうに生々しい。
それはあのどこまでも伸びていく権力の外に存在し、すなわち、それは存在などしないということになるのだ。 存在しない場だけが占有されない。
香港の作家の小説の直接邦訳というのはこの本が初めてだそうで(今まであったのは英訳からの和訳だそうで)、そういえば直接旅行で行ったことはないけど友人の旅行話を聞いたり、香港映画とか香港が舞台となった作品やゲームをやったりして香港そのものに感じていた距離感はそれほど遠くなかったのに、そのわりに香港が生んだ作家って全く知らないことに改めて思い当たると不思議な感じがする。
もっと読みたいな。

