招かれざる客たちのビュッフェ【感想】

読書

 『招かれざる客たちのビュッフェ』(クリスチアナ・ブランド)読了。

 カクテルから食後のコーヒーまで16編の短編集。
 元々ブランドの書く「厭なヤツ」は本当にいや~なヤツなんだけど、うっかり感情移入する余地のない、隙のない曲者ぞろいの短編が揃っている。
 印象に残った短編について一言ずつ。

 シリーズ探偵、コックリル警部が登場する短編が4編。

 「事件のあとに」・・・・・・元警官が語る、オセローの芝居の後に起こった殺人。ミスリードが散りばめられてます。
 それとは別に、やっぱりイギリスの作家はシェイクスピアは当然の常識とし て書くから、知識があれば、登場人物の関係性とか、もっと示唆してくれるものがあるんじゃないかなーという疑惑が捨て切れないんだけど。
 
 「血兄弟」・・・・・・見分けがつかないくらいよく似た双子の兄弟が、お互いにのっぴきならない状況に陥って、互いにアリバイを作り、元凶ともいえる女性を殺そうとする、倒叙モノ。
 双子のどっちかが殺したけれど、どちらかを証明できなければ捕まえられることはないって、そんな論理、わりと最近日本の長編でも読んだ気がするなあ。
 双子のそれぞれの思惑が込み入った状況にひねりにひねりを加える。それなのに、2人が追いつめられる過程を含めて、描写がスマート。

 「婚姻飛翔」・・・・・・結婚式の日の晩餐、新郎が毒を飲まされ殺された。
 処女女王蜂を追って雄の蜂が飛ぶ、婚姻飛翔のモチーフが印象的。しかもただのモチーフじゃなくて、重要な役割も果たしている。本当に無駄のない短編を書く人です。

 「カップの中の毒」・・・・・・夫の子供を孕んだと言って飛び込んできた女に毒を飲ませて殺した妻。倒叙もの。殺人の後、細かいところに気を使って偽装してみたり、夫に毒づいてみたり、夫の同僚にふらりとしてみたり、くるくる変わる主人公の心の動き。場面は違えど身につまされる部分がないでもなく、この描写は女性でなければ書けないかもしれないなあ。
 主人公と共にどきどきしたりへこんだりしてひきずられていったので、うっかり手がかりを見落として、ラストで綺麗に背負い投げ。

 以降はそれぞれ独立した短編。

 「ジェミニー・クリケット事件」・・・・・・電話で謎めいた言葉を残して密室で弁護士が殺された。そしてその直後、同じような言葉を残して警官が殺された。
 事件の関係者の青年が、犯罪事件に興味を持つ老人と「犯人当てゲーム」として語り合う過去の殺人事件。その2人の語りが次第に緊張感を帯び、スリリング。
 英版と米版でちょっと違うらしく(こちらは英版)、『北村薫の本格ミステリ・ライブラリー』で米版のラストだけ確認してみたんだけど、ラストだけならやっぱり最初に読んだ方がインパクトが強くて、英版に軍配をあげてしまうなあ。
 けれど、その後で解説対談を読んだら、もう一箇所違う部分があるらしく・・・・・・うーん、その確認はちょっと宿題にします。

 「スケープゴート」・・・・・・過去に起きた著名な奇術師を狙った狙撃事件が元で、疑いをかけられ職を失い死んで行った父親の仇を討とうと、自らが思い定めた犯人をつけ狙う少年。
 少年に犯人と思われて困ったカメラマンと奇術師が協力して、事件の関係者を集め、本当の犯人を探し出す私的な法廷を開廷する。
 事件の関係者がそれぞれの記憶を元に話し合い推理する、これも設定が面白い。それにしてもこの作者はほんと、ただのひねりでは満足しませんなー。

 「もう山査子摘みもおしまい」・・・・・・少女が死に、ヒッピーの青年に疑いがかけられ、目撃者がいないかと証言が求められる。
 それぞれが自分の秘密のために証言をして、それが数珠繋ぎとなっていく、作家によっては喜劇にも黒い笑いにもできる設定だけど、ブランドのこれには笑うような余地がない。
 ヒッピーたちの素朴な(単純な)言動、子供たちのちょっとした秘密、かれらが住む小さな世界の描写は牧歌的なのに。
 小さな秘密に比べれば、容疑者がどうなろうがどうでもいい、無関心の怖さはちょっとこたえられない。

 「スコットランドの姪」・・・・・・かつて財産を奪い取ったスコットランドの姪を恐れるケチなおばさんから真珠のネックレスをいただこうという話。テーマがテーマで登場人物もアレな人達なので、コンゲーム的な面白さがあって、この短編集の中ではほんとに口直しの一編。

 「神の御業」・・・・・・主人公の思考にしびれるー。