春翠の色気・得庵の男気、それから孤篷庵特別公開

美術館・博物館

お茶への興味はたまたま買って読んだ『眼の力』から始まっていて、今年伊部に行って焼き物を見て、作為不作為とかいろいろ考えたことからこれを再読してみたんですが、ここに出てくる方々の蒐集されたものって今は美術館で見られるんだよなーと思い当たって、京都へ行ってきました。

蹴上から南禅寺の横を通ってまずは野村美術館へ。「野村得庵」展。
『眼の力』の対談中に、「国司茄子」を藤田家と野村家が争って、野村が譲ったという話が出てきたんですが、その後野村が入手した「北野茄子」があって、そこの説明文を読むとあー悔しかったんやなー良かったなーという。
調べずに行ったら、後期展示で伝藤原佐理の筋切通切が出るらしく、それはちょっと見たかったなー。
得庵好みということでいくつかありましたけど、お師匠さんとか周囲に影響を受けて趣味が変化してった人なのかな、とか。
マンゴスチンを使った香合とか面白かった。
片桐石州の書は線が悠々として好き。
地下の館蔵品展では茶杓と竹花入が見られたのが嬉しかった。
茶杓は茶人の刀というし、数寄人は茶席で誰の茶杓か当てる遊びをしたっていうし、竹を削って作る茶杓にそんな個性が出るんだなーと、あと『眼の力』にはこれぞという美しい写真がたくさんあるんですけど、最も感銘を受けたのが、壁に掛けた竹の花入に椿をさして、打った水の飛沫が聚楽壁に染みを作ってる写真だったのです。
まあでも花をいけずただ並べて置いてある花入れはさみしいな。
遠州の茶杓はさすが遠州で、あと松永久秀の茶杓が面白かった。先が丸っこくて艶めいて。

それから少し歩いて泉屋博古館の「Baron住友春翠」展へ。
思いがけず中国の青銅器コレクションすごかった。ていうか凄すぎた。太鼓もすごいけど銅鏡もあっていいー。
ここ来るの初めてだったんですが、美術館の建物もいいですねこれ…この中庭見ながら1日過ごせる。
1日の時間配分を間違えて、もっとここで時間をとるべきでした。

特別展は住友家の須磨別邸とそこに飾られた美術品。
野口孫市の須磨別邸は模型もあったけど、もう全然日本って感じがしないっすな。戦災で焼けてしまったのが惜しい。
絵画も花器もだけど、それを展示のために置いてる花台とかちょっとした家具もすごいいい雰囲気で、芸術のパトロンで美男で本人の書や絵もすっすとした線で、全体的に品のある趣味の良さが溢れてて、こういう人が審美眼があるっていうんだろうなーとしみじみ思った。
とにかくコレクション凄かったしいい美術館だった。また何かの機会に行こう。東京行ったら、分館も見たい。

京都巡りの最後は大徳寺孤篷庵の特別公開で締め。
20人くらいのグループで説明を聞きつつ見学。
孤篷庵のことは、重森完途の庭園の本で知って、小堀遠州が晩年を過ごし、焼失したあと不昧公が再興したということで、一度見てみたかったもの。
雪が積もった時に牡丹に見えるという牡丹刈りとか、文章で読んだ時はもっと生垣みたいな感じかなーと思ってたら違ってた。やはり実際に目にすると違う。
今は(ビルなどが見えるため)木で隠されてますが、昔は借景に船岡山が見えて、枯山水の波の上の山に見立てられたというの、見てみたかったなー。
茶室忘筌から庭を見た時、上半分の障子で額縁のように画が切り取られて、そこから見える庭がこれぞという構成で美しかった。
西向きの茶室に入った日光が床板と天井に反射して、胡粉を塗った天井板の杉の木目がゆらゆらと波のように見えるっていう話が良かった。
あと亭主の席から床に向かうと壁があるんだけど窓が開いてて、そこに座ると山と月の絵が見えるというのも。
床の掛け軸が、小堀遠州が30代の時に隠居した自分の姿を描かせた絵っていうのも面白かった。
書院直入軒は、探幽の障壁画がすごくよかった。あと松花堂昭乗の猿の絵(かわいい)と扁額があった。
ほんと、庭も建物も庵主の視界に入るものすべてが計算され洗練されて、これこそ美の極致だと思った。

行ってよかったなーとしみじみ思いつつ、今宮神社にお参りしてあぶり餅を食べた。