小林一三生誕150年「The コレクター逸翁」展

美術館・博物館

池田の逸翁美術館に行ってきました。
逸翁美術館では昨年から小林一三生誕150年記念の4つの展覧会をやっていて、先の2つは行ってないのですが、秋の「楽しい茶の湯 タノシイチャノユ」展と年が明けてからの「The コレクター逸翁」展に行きました。

そういえば「楽しい茶の湯」展の方の感想をここに書いてなかったのでちょっとだけ。
小林一三の茶道具のコレクションの中でもちょっとおもしろい、ユニークなものに注目していて、1周目はキャプションをじっくり読みながら、2周目は読んだ内容を一旦忘れて、展示の取り合わせの妙を楽しむ感じで見ました。

いちばん印象に残ったのはなんだろ、江月宗玩の始まりそして終わっていく一行書かな、それとも千利休の朝顔の逸話がのせられた青磁かな~。
あと偕楽園焼の交趾写しのすごいきれいな青。江戸時代に日本であんな色出せたんだなあ。
酒井抱一の扇子もよかった。金山平三があんな扇面を描いているって初めて知った。

昨年は「大阪の日本画」展からずっと、かつて床の間を飾り、いま美術館の展示室で映えるわけでない小品をどうしたら魅力的に見せられるんだろうっていうのが頭にあったんだけど、このときの取合せで見せるというのはひとつの解答な気がしました。

さて、今回の「The コレクター逸翁」展。
最初に目に入ってくるのは久保田米僊の梅と鶯。まるい眼をしてかわいい。気持ちが一気に春めいてくる。
大学を卒業してすぐに新聞に小説を投稿した謝礼で、初めて入手した「新画」だそう。
今回の展示はキャプションにそのものの説明とともに、逸翁さんがそれを手に入れた経緯が書かれていました。
今まで見たことがあったコレクションも、逸翁さんの声があるとないとでは見え方が少し違ってくるというのが実感できました。

逸翁さんといえば蕪村や呉春のコレクションの印象がありますが、蕪村に注目したきっかけが学生時代に俳句をやっていて正岡子規が好きで、そこからだというの。そんな面も初めて知りました。
結婚するときに義父(俳句の宗匠らしい)からもらったという蕪村の短冊が展示されていました。

ほたむ散て うちかさなりぬ 二三片 蕪村

見たときに「ほたむ?」と思い説明を読んで、ほたむが牡丹のこととわかると、一気に脳内に絵が浮かびました。こういう経験ができてよかったんですが、自分自身がもっとぱっと見で読んでわかる知識を蓄えているといいよなあ、という気持ちになります。

読めなかったといえば、安田靫彦の逸翁さん宛て書簡も字としてはほぼ読めなかったのですが、細い線の感じや文字のバランスがよくて、紙が変色したのかな、横ストライプの表装がよく合っていていいなと思いました。

以前ここの学芸員さんのお話で、逸翁さんは自分が気に入ったものしか買わない、美人画とか女性が描かれた絵は買ってないというお話を聞いた覚えがあるんですが、今まで何回かここの美術館を訪れたなかでも池田蕉園・輝方から贈られた役者絵のような絵は見たことがなく、コレクションの中で珍しいもののように思いました。
ちゃんとセットで仕立てて風帯だけちょっと変化がついているの。
箒庵の手紙なんかを見ても、人から贈られたものを大切に扱っているという印象を受けました。

茶道具はやっぱりいいなあと感じられるものがいろいろあり、特に横になった瓜の祥瑞、セーヴル窯の瓢形の花瓶、志野呼続茶碗「与三郎」がよかったです。

加藤唐九郎の古瀬戸写があり、永仁の壺事件に触れ、逸翁さんがもし生前にそれを知っていたらどうしただろうか?という問いかけがあり、面白いなと思いました。
あとから思い返すとこの展覧会のポスターに使われているのもそれなんよね。
それが古瀬戸でない現代の作品、いわば偽物だとわかったら?
騙されたと怒るか、自分の目を恥じるのか……実際それにお金を出したコレクターの気持ちはおしはかることも難しいですが、逸翁さんならそうだなー、たぶん人をもてなす場にはふさわしくない、として人前に出すことはしなくなったんじゃないかな。
それでも私的な場では使ったんじゃないかなー。目には自信があったんじゃないかと思う。それそのものの良さにはかわりはないのだから。ていうのは逸翁さんに夢見過ぎかな?

コレクターとして自分から熱烈に求めたり、出会いを楽しんで買い求めたり、人から贈られたりと、モノには様々な来歴があり、それを見ていくと自然と逸翁さん本人の経歴や交友関係が浮かび上がってくる展示となっていました。

おそらく人生の頂点のひとつといえるんじゃないかな、大臣として新嘗祭に出席して天皇から下賜された「くろき」「しろき」の横に、近衛文麿の自殺直前のほぼ絶筆といえる「無」を置く展示の凄まじさよ。激重箱書……。
そして、イギリスの古道具屋で二束三文で売られていた素晴らしい蒔絵の硯箱を連れて帰る逸翁さんの心持ちよ。

しんみりとして展示の締めくくりは重要文化財継色紙。手に入れとったんかいとツッコんで終わる。

モノの来歴も、それにかける思いも色々あって、コレクションの妙味が感じられる展示でした。

帰り道、池田駅の近くにあるシュエットという喫茶店に入りました。

スイートポテト、まるで焼き芋みたいな熱さでびっくりしました。めちゃくちゃ笑顔になってしまった。バニラとシナモンをあわせてコーヒーを飲むと、いい塩梅でおいしかったです。
また池田に行ったら寄ろう。