京都の美術館めぐり

黒田辰秋の朱漆のお重 美術館・博物館

4月、緊急事態宣言が出る前に行った京都のことをメモがてら書いておく。

まずは中信美術館。
以前どこかで名前を見かけたことがあり、その時はなんとなく長野の美術館かな? などと思っていた。京都中央信用金庫の美術館らしい。
公共交通機関の最寄りはたぶんバスで堀川下立売らへんになると思うが、この日は地下鉄丸太町駅から府庁の前を歩いていった。

京都中信美術館入り口

京都中央信用金庫創立80周年記念、須田国太郎展。
京都国立近代美術館の「京のくらし」展で何点か見て、気になっていた。
(以下は近美で撮影可能だった時に撮らせていただいた写真です)

須田国太郎の「夜桜」

その時見た「夜桜」。
屋台が出ていて、灯りに桜が照らされている。
あっちに行けばおそらく人もいてにぎやかだろう、けれどこっち側は静かだ。
このあっちとこっちの間に薄膜がある感じ。
これからあっちに行くのか、あっちからこっちに来たのか、それともただあっちを眺めているだけなのか、見る者によってどうとでもとれる。

須田国太郎の5羽の白鳥の絵

色合いとか、絵からなんとなく感じるさみしい雰囲気に惹かれるものがあった。

中信美術館には1階と2階に3つのこじんまりとしたすてきな展示室があり、この日は入場制限が1室につき5人までとなっていて、ゆったりと鑑賞することができた。
鑑賞は無料のうえに、全作品が載った立派なブックレットまでもらってしまって逆になんか申し訳ない。
ブックレットを読んで須田国太郎がもともと学者だったこと、スペインに留学したことなどを知る。
展示は風景画の他、能のクロッキーがけっこうあった。
私が見てもただ能役者がなんらかのポーズを取っているとだけしかわからないんだけど、ブックレットに役者さんがお稽古の時に「須田国太郎の絵を見ろ」と言われたという話、役者さんの動きの中で重要な要素が切り取られて描かれていると載っていて、見る人が見ればそういうのもわかるのかな、と。
須田が絵にのせた理論は読み取れていないけど、自分が惹かれるのはスペインつながりなのかなーとか、スペインと能の「動と静」からの連想でピカソの闘牛を思い出したりした。
鑑賞に加えてブックレットを読むことでけっこう得るものが多かった。

北山の府立植物園の東側に、京都府立京都学・歴彩館がある。
ここで「魔よけとまじない」展をやっていたので見に行ってみた。

京都学・歴彩館「魔よけとまじない」展チラシ

ここの展示室には初めて来たが無料だったので小さな展示かと思っていたら、思いがけず広い展示室に豊富な展示で見応えがあった。

魔除けの絵、鍾馗さんや角大師、閻魔さんとか。
けっこう知らない行事があって、茱萸袋を重陽の節句から端午の節句まで邪気除けとして掛けるとか。
子どもがその準備をしている絵があり、なにも知識がないとただ子どもが2人いて赤い袋を持っている絵だとしか思わないだろうけれど、知識があればそれが茱萸袋だな、重陽の節句の準備をしているんだなと季節や場面が分かるわけで、絵画を見る上でも知識の差って大きいというのを改めて実感した。

見た中では、伝原在中の胡粉の白一色で描かれた屏風絵がインパクトがあった。
産室を清浄に保つために白で描かれた絵はお産が済むと処分されるのだという。
本当に原在中の作かどうかはわからないがけっこうな大きさがあり線も精緻に見えて、このレベルの絵画が使われるなんて相当のお家のお産だっただろうなと思いつつ、じゃあなぜこの絵は今ここにあるんだろう?という考えが浮かんできてしまう。
まじないに使う呪物は役目を果たせば適切に処分されるもので……焼く、流す、埋める、四つ角に置いてくるなど…それがそうされずに遺っていて、目の前にあると妙な気分がしてくるものだった。
あとはポスターにも使われている横井金谷の鍾馗さん、あと呉春の弟子の紀広成の閻魔さんが見られたのが良かった。
赤とか白とか、一色で描かれている絵、色に魔除けの意味が持たされているのが面白かった。
ここでは展示物一覧と一緒に展示の参考文献リストも配布されていたので、参考にさせてもらって読んでみようと思う。

バスで移動して京都国立近代美術館へ。展示を見る前にカフェで腹ごしらえ。

京都国立近代美術館カフェのスコーンセット

ここのスコーンはマーマレードをつけてくれるのが好きでけっこう頼んでしまう。

この日は「ピピロッティ・リスト」展をやっていた。
何も前知識がないまま展示室に行くと、靴を脱がされてちょっとびっくりした。きれいな靴下を履いていってよかった……。
裸足でアートを見るっていう体験は、何度かあるけどけっこういい。
ソファやベッドや床に座ったり寝そべったりして落ち着いて、壁や天井に流れる映像を眺める。
水の中の映像は、自分が小さなカエルかなにかにでもなって、水流に翻弄されながら世界を眺めてるみたいだ。
けっこう映像作品を見るの好きだなと思いつつ、学生さんがけっこう多かったので一通り見たらコレクション室へ。
こっちは空いていたのでゆっくり見た。
河井寛次郎、大多喜二郎と大久保作次郎など……。

近美を出てバスで四条まで下っていって、今年オープンした鍵善良房の美術館、ZENBIへ。

ZENBI黒田辰秋展チラシ

黒田辰秋展。入館記念にお菓子をいただいた。
黒田辰秋を初めて見たのは、川端康成のコレクション展だった。その時の漆の色合い、なめらかさにもう一目惚れしてしまって、それ以来名前を見かけると見るようにしている。

展示では鍵善良房で使われたくづきりのお重などがあり、

鍵善良房で使われた黒田辰秋のくづきりのうつわ

螺鈿の容器からこう、朱のうつわが出てくるのがいいよね、あーーーこの形、手に持ってみたい。
せいぜい舞妓ちゃんが持っているところを想像する。

河井寛次郎のくづきりの書

くづきりの書は河井寛次郎(複製)で、額が黒田辰秋。
ここで知ったが五条の河井寛次郎記念館の看板は黒田辰秋作なんだそうだ(字は棟方志功)
なんか存在感のある看板だったなそういえば。

黒田辰秋作の水差

この黒い水指の内側の螺鈿を覗き込む感じとてもよい。
他にも楽茶碗や茶杓なども展示されていた。
その時来館していたのは夕方で閉館間際ということもあり自分ひとりだったので、置かれていた他館での図録や参考図書も眺めて満喫した。