「文豪川端康成と美のコレクション」展

姫路文学館 美術館・博物館

姫路市立美術館と姫路文学館の連携企画で「文豪川端康成と美のコレクション」展をやっているというので姫路に出かけてきた。
今年はシーズンごとに姫路に行っている気がする。
姫路駅前からバスに乗り先に美術館へ。特別展の料金は2館合わせてで1400円。この2館をじっくり見ると考えれば大変お得に感じる額。

展覧会の副題は、「古今東西の名画、文豪たちの書 ーー幽遠を見つめる眼」。
川端康成が美術品のコレクターというのはどこかで聞いていて、「土偶・コスモス」展に出ていた土偶を見たのが最初だったと思う。
今回の展覧会で知ったが絵画、書、骨董に工芸品と幅広く集めていたようだし、書簡も多く保存されているようだった。

コレクションの中でも国宝に指定されている池大雅・与謝蕪村の「十便十宜図」は美術館で、浦上玉堂の「凍雲篩雪図」は文学館での展示となっていたが、私が行った日は浦上玉堂の方は期間外で残念ながら複製展示だった。
美術館では展示とともにところどころにそれらについて川端が語った文章がパネルで紹介されていて、美術品に対してはあれこれ説明するようなことは言わなくても、好きか嫌いか、惹かれるか惹かれないか、いいか悪いかだけでいいようなことが書いてあったのに、実際書かれた文章を読むとこまやかで愛情があって……特に埴輪の頭部、あの目と口に穴があいた簡素な顔に対しての描写といったらもうもう。
川端がロダンの「女の手」を凝視する写真があったけれど、ああいった文章は、ああして観察することから生まれるのかなーと思った。

与謝蕪村の文台とかなかなかレアなものがあったり、池大雅の「般若心経」! 池大雅は字もいいなあ。
それから川端の本の装丁画ということで東山魁夷が多数あってどれも良かったが、特に北山を描いた絵がとても好き。
絵ではあと草間彌生の「不知火」。水玉かぼちゃしか知らなかったので、初期にこんな絵があるとはと驚かされた。
あとベル・串田の「センチメンタル・ジャニー 神と共に」がとても良かった。展覧会で川端が欲しいと言ったのを非売品と断ったが、後に川端がノーベル賞を取ったときに画家からお祝いにと贈ったらしい。
それから工芸品の中では黒田辰秋の漆器が本当に良かった。また眼が肥えてしまった…と思いつつ、文学館に歩いていった。

カフェでアイスコーヒーを飲んで休憩してから文学館に入る。
こちらは2つのフロアに展示が分かれていて、2階では川端康成の作品や書簡、写真など。芹沢銈介の装丁とか。あと浅草のカジノや見世物なんかのチラシもあり、ほんといろんなものを蒐集してたんだなーとしみじみ思った。
ノーベル賞をもらってすぐ家具屋に入って賞金で買った椅子とか。

川端康成の初恋の人という伊藤初代からの書簡があり、また川端が岐阜にいる初代に書いた手紙があった。
出されなかった手紙というけれど、草稿なのかな。あれほどの書き手が、たった1人の女の子に向けて筆を尽くして説得を試み、会いたいと訴えかける手紙、なりふり構わず必死なやつ、こんなもの他人が読んで良いのかと思うような。
川端康成の短編で、長良川の暗い水面の描写がとても強く印象に残っていたものがあり、この失恋のタイミングで長良川を見ているのか、というのが分かった。
そういえば3階の方に太宰治が芥川賞の選考委員をしていた川端に送ったあの有名な手紙があって、あれもまた別の意味で必死だったな~。
反故なんか許されないいい紙に散らしで
「早く、早く」

あと川端が撮った満州の写真も魅力があった。

3階の展示はいろいろな作家の書や書簡が主。
川端がノーベル文学賞を受賞したとき、その知らせを受けたときの書斎の写真があり、そこにかけられていた3枚の書が展示されていた。北原白秋、若山牧水、尾崎紅葉。
いろんな作家の書があったけれど、意外と田山花袋の字が好き。
横光利一からの書簡にあった川端の何かの作品の評で、「論理の関節が詩で煙っているので殊に良い」っていい方がなんか良かったな。
それに林芙美子が川端の新刊を読んで居ても立ってもいられず筆をとりましたって手紙を書いているの。そういう書簡のやり取りっていいなと思った。

ほんと2館合わせて見ごたえのある、贅沢な展示でした。