和歌山県立博物館「道成寺と日高川」展

夕暮れの和歌山城 美術館・博物館

和歌山県立博物館の「道成寺と日高川」展に行って来た。
当初は会期が始まってすぐのミュージアムトークの日に行くつもりが、実家の方で外せない予定が入ってしまい、いつ行くかなあ、1日で道成寺とハシゴできるかなあと迷っていたところ、台風で講演会が延期になり、元々予定されていた関西文化の日の講演と二本立てになると知って、そんな贅沢な日ってないよと、いそいそと出かけた。
博物館に着いてまず1時間半、講演をみっちり聞いた後に40分くらい展示が見られるはずという完璧な時間配分。

展示室に入るなり、すらりとした千手観音像に吸い寄せられた。
本堂の北向観音の内部から発見され、修復復元された奈良時代の像。
それから今回新たに寺内から発見されたというこの千手観音像の手を合わせた仏手もあったけど、こちらもとてもすらりとした指先まで美しい手だった。
道成寺の仏像がいろいろあり、その中でも頭部が鳥?の迦楼羅立像には驚かされた。

道成寺縁起の大体の話は知っていたけど、実際に縁起を見てみたらなんか登場人物が個性的な、道成寺の僧とかけっこう憎々しい顔つきをしていて、男が追われて逃げ込んできたのに、あまり深刻じゃないような…。
女性の顔、上半身、全身と異形に変身していくのが印象に残った。

展示を見ていて浮かび上がってきた、熊野参詣道の切目王子など、熊野詣した人に害を及ぼす何か道成寺縁起の下地になりそうな話がとても興味深く思った。
熊野の参詣曼荼羅とか載ってるかな、熊野三山展の図録を読み返してみよ。

講演会1は「道成寺縁起と流域の宗教文化」。
道成寺の文献資料はほとんどないそうで、わからないことが多いけれど、その地域の歴史から、道成寺縁起を逆照射していくとおっしゃっていて、そうそのスタンスが魅力で和歌山県博に通っちゃうんだよな~。

北向千手観音から発見された千手観音は顔がなかったところから復元されたそうで、元々正面にウロがある材で、背面側に当初材が多いそう。
胴がくびれて腰から下が細くて、他の奈良時代の多臂観音像との比較がわかりやすかった。
都の南の端を守る鎮護のお寺という姿が語られ、そしておよそ150年で御本尊が交代していることから、おそらく地震による破壊があり、新しく御本尊が造られた10世紀のことが講演によって次々と明らかにされていって、大興奮の時間だった。

あと日高川流域に熊野神が勧請されたこと。熊野速玉大社の家津御子大神像が神像としては一般的でない跪坐(正座)をしていること、しっかり見ていたのに気づいてなかった。

講演会2は「道成寺縁起の謎をさぐる」。
道成寺縁起を「日本無双の縁起」と言った足利義昭の略歴から始まり、縁起に描かれた人物の多彩な表情を見ていって、その顔を手がかりに、描いたのは南都絵所の琳賢か?とする。
義昭の話は少し遠回しかと思ってたけれど、講演の最後に至った場面に、ああこういう構成だから義昭の経歴が必要だったのかーと膝を打った。
素晴らしい講演でした。

講演のあと、急いでもう一度ぐるぐるまわった。
すらりとした千手観音の後ろ姿を名残惜しく見て、仏手を見て、熊野速玉大社の家津御子大神を見て、熊野権現本寺仏像見て、江戸時代の縁起もばばばっと見比べて、頭がはちきれそうになって帰宅。