「超コレクション展」中之島美術館と国立国際美術館

超コレクション展 美術館・博物館

今年、大阪中之島美術館がオープンした。
大阪市近代美術館構想が始まったのは1980年代。紆余曲折あって40年かかってのオープン。
私はその紆余曲折の部分は知らず、中之島美術館の存在を知ったのはイケフェスのガイドブックで、遠藤克彦建築研究所設計の黒い箱を見たのが最初だった。
宙に浮いたように見える黒い箱。それが美術館とは半信半疑で(ついでにイケフェスでの内部公開イベントは残念ながら抽選に外れてしまった)、昨年のいつごろだったか、建設中の建物の外囲いが外れて黒い箱があらわになってから、本当にできるんだとやっと実感できた。

開館記念のコレクション展は絶対に行こうと思っていたが、時間がなかなかとれず、実際に行くのは2/2のオープンから1ヶ月以上経ってからの会期終盤になった。
大阪駅前バスターミナルでなんば行き市バスに乗り、田蓑橋で降りて歩いていく。

大阪中之島美術館

入り口はどこかよくわからなかったのでなんとなく人がいる方、ヤノベケンジの猫を目指して歩いていったが、実は入り口は1つでなく1階にも2階にも、各方向に複数あるらしい。
時間帯予約をして、その時間帯の中頃に着くように行ったが、中では入場待ちの行列が伸びていた。春休みに入る前の平日午前中にしては、かなりの人出だった。
コロナ禍に入ってからこれほど人口密度が高かった展示室は、東京都美で見たゴッホ展くらい。
人が多くても、まあでも美術にそれほど興味がなさそうな層まで来ているという感じでもなく、美術館のオープンを祝う祝祭感、があったかな。
人が多くて2階から入ったらコインロッカーもトイレも使う余裕がなかったので、次回行ったときは落ち着いて寄れるといいなと思う。

コレクション展は2つのフロアを使い、3章にわけて美術館のコレクションがお披露目される。

巻頭はコレクションの基礎となった山本發次郎コレクションの佐伯祐三。人が多くてメモする余裕がなかったが、佐伯祐三の線に墨書の線に通じるところがあるという言葉があって、私が惹かれるのもそういう線かもしれないと思った。

静かな熱狂のなか流れるように鑑賞していったけれど、具体のエリアでガイドを聞いていたおばちゃん2人が、同時に聞き終わって「うん、わからん!」とハモっていたので思わず吹いてしまった。

大阪中之島美術館コレクション展

大阪と関わりのある近代・現代美術を収集するという力強い宣言。
そして大阪に過去にあった館の所蔵品を寄託されていること。
まさかアルチンボルドにお目にかかるとは思っていなかった。かつて大阪市にあったふれあい港館ワインミュージアムの所蔵品だったそう。
それからサントリーミュージアム天保山から寄託された大量のポスターコレクション。
意外なところでは、家具のコレクションが豊富だった。

コロマン・モーザーのアームチェア
ミス・ブランチ

美しい椅子は影まで美しい。

コレクションにまつわる99の物語がサイトで紹介されているので、改めてゆっくり味わいたい。
https://nakka-art.jp/untold-99-stories/

そういえば美術館のコレクションで、作品の金額に触れている文章をたまに目にしたことがある。
A美術館「この作品は○億円! こっちは○億円です!」 
私 (なんか具体的だとやらしいな…)
B美術館「一点豪華主義にするのではなく、値ごろな作品を幅広くたくさん集めました!」
私 (それもまたひとつの戦略…)
中之島「この作家の作品は今は高騰しとるらしいけど、安いときに買っときました!」
私 (すごく大阪っぽい!!)
となった。

あと印象に強く残ったのは、「殉教者の娘」三露千鈴からの島成園「祭りの装い」のあのへんの並びがすごくよかった。
それからロシア・アヴァンギャルドのコレクションがあるらしく、レフの現物とか初めて見たなあ。

面白そうな展覧会をやっているから行くというより、この美術館がやっているなら行こうと思えるような場所になりそうと期待がもてそうなコレクション展だった。

中之島美術館の隣の国立国際美術館へ。
「感覚の領域 今、経験するということ」展。

国立国際美術館看板

いつもここの看板で記念に写真を撮っておくが、建物としてはほぼ美術館ではなく科学館の主張が強いな……。

今回の展覧会では、飯川雄大、伊庭靖子、今村源、大岩オスカール、中原浩大、名和晃平、藤原康博の7人の作家の今の作品が展示されている。
7人と作家が絞られていることで、いつもより気持ちゆったりめに、1人1人の作品に向き合うことができたと思う。

今回は特に藤原康博の絵に惹かれた。

藤原康博の絵(水田のむこうにこんもりとした林が見える風景)
藤原康博の絵(合板に描かれた白い雪山)

なんかすごく実家感があるんだよな…。見るからにやわらかい、おそらく赤ちゃんを包んでいたような布、子ども部屋っぽいファブリック。板に描かれた白い山々も、なんかよく見るとどこの古い家にもありそうな板なんだよな。

それから今村源の展示。

美術館吹き抜けに展示された今村源の作品

今回は吹き抜けに展示されていたけれど、なんというか、展示される場所と密接に関わる作品なんだなと思う。
いつか見たことがあったな、と思い返して、2019年だったかのイケフェスで、内部公開されていた原田産業ビルで展示されていたと思い出した。

2019年イケフェス、原田産業ビルにて公開されていた今村源の作品

写真はそのとき確認して撮らせてもらったもの。
これも建物の細部の良さと相まって強く印象に残ったんだよな。
今回の特別展は、鑑賞の性質上これまでになく館内のスタッフさんに話しかけたりコミュニケートする機会があったけれど、皆さんとてもやわらかく対応してくださって、とても気持ち良い鑑賞体験ができた。

コレクションは「つなぐいのち」。
1から順番に見ていって、4の「生のなかの死、死のなかの生」に至ったときにカタルシスがけっこうあった。
うーん、あまり軽々しい言葉では言えないな。ここまで極限に近づいたものを目にすることはそうそうないから……。
思いがけない場所に塩田千春の「私の死はまだ見たことがない」を見て、そう、それはまだ見たことがない。
そういえば福岡道雄のピンクバルーンは、この日中之島と続けて見ることができた。

美術館を出て、1日に見た印象をいっぱいいっぱいに抱えて梅田まで歩く。
途中でロンドンティールームに寄って休憩した。

美術館グッズのクリップ

この日のお土産はコロマン・モーザーのアームチェアクリップ。