2018年のMONKEY

読書

2018年は本を読んだら感想をまめに書こうとか言っていた気もするが、ほとんど書かずに終わってしまった。
なんとか文芸誌『MONKEY』だけはまだついていっているので、例年のごとく2018年の3冊も感想を簡単に書いておこうと思う。

春号の特集は「絵が大事」。

本にさし絵があった方がいいかどうかというと、中学生くらいまではあった方が嬉しかった気がする。
近年読んだ小説で、さし絵の記憶はほとんどない。不思議の国、鏡の国のアリスと、グスタフ・マイリンクの『ゴーレム』にあったかなあ。
特集のひとつに柴田元幸のエッセイがあり、欧米文学のさし絵の歴史に触れていたが、19世紀にはふんだんに使われ重要だったさし絵が、20世紀に入ると急激に減少するらしい。小説の心理描写が精密になるほど絵の入る余地がなくなるという説明になるほどと思った。
しかしこの号は「絵が大事」。
猿のあいさつから引用させてもらうと、

そもそも「言葉」に「絵」を「添える」という考え方が間違っているのであって、「言葉」と「絵」を組み合わせることで足し算以上のものを作るんだ、と思うようになりました。

この言葉通りに、特集では、ウィリアム・ブレイクの詩集を中心に、絵と文章が分かち難い作品が集められている。

ウィリアム・ブレイクの SONGS OF INNOCENCE AND OF EXPERIENCE は、版画+英文+翻訳が同じページに載っていて、詩を読むというよりは美術館で絵を鑑賞するように読んだ。
「無垢」の方の出版は1789年、ということはこの間見たゴヤの版画集の10年前だな。
ざっと再読してみたが、口に出して読みたい詩なんだろうな、と改めて思った。英語読めないなりに、これらの詩を口ずさむ感じは想像できる。

ジョン・クラッセンの絵と小川洋子の文の「訪問者」は、絵が先にあったのかそれとも文章が先なのか迷う。
大人向けの絵本のような、謎があり想像する余地のある短文で、立ち止まって絵を頼りに文章を読み解くような、それとも文章を頼りに絵の世界に入っていくような感じだった。
ジェシ・ボールとブライアン・エヴンソンの「ヘンリー・キングのさまざまな死」は、あらゆる場面であらゆる死に方をするヘンリー・キングという、なんなんだろうなこれは。でもこれ好きな人多いと思う。

それから特集と別に、アダム・サックスの「遺伝性疾患」という超短編集が不条理な笑いがわいてくるやつでめちゃ面白かった。
どれもこれもテーマが「父と子」で、似た者のような、対立してるような、愛情がなくもないような、取りようによって多様な立ち位置のテーマが取れる関係だと気付かされる。

最後に柴田元幸のカズオ・イシグロの英語の文章についての講演が収録されていて、和訳でしか読んだことがないので興味深く、読み応えがあった。

夏号の特集は「アメリカ短篇小説の黄金時代」。

1950年代。どういう文化の時代か、まったく思い浮かばない。日本は終戦から数年経ったところ。検索してみると、テレビ放送の開始、高度経済成長期突入、ベストセラー本ランキングを見ると、谷崎潤一郎とか三島由紀夫とか井上靖とか吉川英治とか。『太陽の季節』はなんか読んだことあるな。
その頃、アメリカにはどんな作家がいたのか。特集は村上春樹訳のジョン・チーヴァーを中心に、ブコウスキー、シルヴィア・プラス、ウィリアム・ゴイエン、ジェームズ・ボールドウィンの短編が載っている。
初めて名前を知ったジョン・チーヴァーの短編からは、上流からちょっと落ちかけてるみたいな人の話が特に印象的で、階層意識の息苦しさを感じた。。自分の力では登れないし、ドロップアウトすることもできない、確かにそこにあるもの。貴族と平民みたいなはっきりした階級ではなく、人種、住処、財産などによるもっと複雑なヒエラルキー。いろいろな立場から見たそれがとても自然に描かれている。
こうした文章で書かれた階層意識って、けっこう現代日本で新しく受け止められるんじゃないかなと思う。確かに存在しているのに自明でなかったものとして。
「泳ぐ人」とシルヴィア・プラスの「ミスター・プレスコットが死んだ日」が好き。

柴田元幸と村上春樹の「チーヴァーとその時代」についての対談で50年代の作家の話をいろいろ読み、特に礼儀正しさの部分が面白かったものの、またしても自分が全然ものを知らないなーと実感した。
もっとついていきたいと思ったら、読むしかないのだよなー。

バリー・ユアグローとスティーヴン・ミルハウザーの新作も載っていて、この50年代のものと今のものが同時に載っている雑誌はやはり良いものだと思った。

秋冬号の特集は「カバーの一ダース」。
音楽ではカバーってよく聞く。小説ではなにか違う言い方をするよな。翻案、とか。もっと気楽なものはパロディとか?
今回の特集は、過去の作品をカバーした1ダース。MONKEYなのでいつもの11作品(お約束)
カバーのもととなったのは童話ありシェークスピアあり落語あり。
マーク・クリックは、いろいろな作家の文体でレシピに沿った料理を書くというもの。カフカ風やチャンドラー風、ボルヘス風、ジェイン・オースティン風など。わーっと面白く読んでしまったけれど、それぞれの作家の邦訳に合わせて翻訳もそれ風になっているわけで、これは翻訳と合わせて力作ですわ。
円城塔「友情の誕生」はとてもおもしろかったけれど、いったいなんのカバーがどうなってこうなってカバーとは一体何なのか…となってしまう。さすがでした。
あとイッセー尾形の「ヨリックの手記」が好き。イッセー尾形ってMONKEYで何度か文章を読んで面白い文章書かれるなと思うので、本を見つけたら読んでみたい。

今号のメインは、MONKEY1号から連載していた古川日出男の宮沢賢治リミックスの完結。ここにそういうものを持ってくるかというテンションの高まり凄かった。
モンキービジネスの古川日出男インタビュー、『馬たちよ、それでも光は無垢で』、そして今回の対談と、この作家の赤裸々な声を読んできて、今回ひとつの大団円を目撃した。それは私にとって得難い体験だった。
まだ読んでない作品もけっこうあるんで…古川日出男はすべて読んでいきたいと思う。