大津「神仏のかたち」泉屋「フルーツ&ベジタブルズ」と細見「わらいとこわい」

泉屋博古館の中庭 美術館・博物館

秋の特別展の本命のひとつ(本命なのに複数あるのかというのは置いといて)、大津市歴史博物館の「神仏のかたち」展に行ってきた。

神仏のかたち展

湖信会という大津の十社寺(浮御堂、西教寺、延暦寺、日吉大社、近江神宮、三井寺、石山寺、建部大社、岩間寺、立木観音)で構成された団体の設立60周年記念の展覧会ということで、参加社寺を中心に大津の仏像、神像が展示されている。
そんな前知識だけで行ったら、釈迦・如来・菩薩・明王・天部・神像・高僧/羅漢 と尊格別に並べられて、仏像入門の決定版みたいな展覧会だった。

展示されていた中では、2014年に新知恩院で発見された木造釈迦涅槃像。念持仏といったサイズで胸部に水晶をはめ込んだ、快慶に近似した作風で、こんな像があるんだな~としげしげと見入ってしまった。
ていうか知恩院が応仁の乱のときに大津に疎開して開いた新知恩院というお寺があるということも初めて知った。2016年に展覧会をやったらしいけど、知らなかったなあ。行けばよかった。
西教寺の、行快の銘記がある観音菩薩立像を含む阿弥陀三尊像も、大報恩寺展で行快の像を見てきたばかりなのでじっくり見た。
最近の調査による初出展の仏像もいろいろとあり、また秘仏もお出ましになっていて、ただ見ていくだけでも充実の展示だった。
けれどすごかったのは、ただ仏像が漫然と並べてあるわけじゃない。
それぞれの仏像に、図つきの説明がついている。
仏像って時代によって特徴があって、見てるとだいたいこの時代だなって分かるようになっていくんだけど、その特徴が細かく丁寧にキャプションに書かれている。
しかも図に示されているので、文章だけを読むよりもめっちゃわかりやすい。
時代が新しくなっていくにつれて、その仏像の作者がいつの時代の仏像に手本を取るかによって、いろんな時代の要素を持つ仏像も現れてくるんだけど、それぞれの要素が丁寧に説明されている。
これが仏像を何年か見てきて少しは経験値を貯めたくらいの私にとって、こういうところを見て、ここが決め手になるのか~とむちゃくちゃ学ぶことが多かった。
それでこれだけの像を集める展覧会が一地域でできるという、大津の奥深さに改めて感じ入った。

京阪の駅に向かうと、別所駅が「大津市役所前」に名前が変わっていた。
ついでに浜大津駅も「びわ湖浜大津」に変わっていた。1回乗り換えて、蹴上で降りて、紅葉シーズンでにぎわう南禅寺を横目に見つつ歩いて泉屋博古館へ向かった。

フルーツ&ベジタブルズ展

古今の野菜果物画が大集合という「フルーツ&ベジタブルズ」展。
以前、京都国立博物館で見た若冲の「果蔬涅槃図」という大根を中心に野菜が集まる涅槃図が好きで、蔬果図に興味があったので行ってみた。

果蔬涅槃図手ぬぐい

これはそのときに京都でおみやげに買って部屋に貼ってある手ぬぐい。
展示期間にちょうど行けたので、再会できた。そういえばこれは今年重要文化財指定を受けたんだった。

野菜や果物が吉祥などの象徴となって中国の宋代に蔬果図が生まれ、日本でも描かれるようになったこと。
絵ごとにそれの意味するところや描かれた経緯が分かり、かなり充実した展示で面白かった。
若冲の「菜蟲譜」と呉春の「蔬菜図巻」という2本の絵巻をじっくりと見た。
呉春の線はやわらかいから、根菜が固く見えないけれど、葉物野菜やしめじなんかはもうさいこう。
松花堂昭乗のナス、伊年印(俵屋ブランド)の屏風、あと幸野楳嶺が好き。
幸野楳嶺はこれまで人物画ばかり見ていてそれほど強い印象はもっていなかったけれど、えー野菜いいじゃん!ってなった。
あと狩野探幽のデッサン帳みたいな写生図巻にトマトがあって、狩野探幽のトマトて、けっこうレアでは…と思ったり。
葡萄図もそれぞれが良かったな~。

それから池田泰真の蒔絵額は、1枚の額の中に質感の違う野菜や果物が表現されていて、この前ちょうどみんぱくの「工芸継承」展で漆芸の工程を見たばかりだったので、その技術におお~となった。

あと、岸田劉生が京都でたどり着いた蔬果図はもう、それ自体が物語だなあ。
花鳥画を見るよりも、個人的には満足感が大きかった。
泉屋博古館を出ると、西日で照らされた東山が美しかった。
展覧会の余韻もあって、ぽ~っと歩いていたら、傘を入り口に置き忘れたのに気がついて、取りに戻るはめになってしまった。

わらいとこわい展

最後に歩いて向かったのは、細見美術館「描かれた「わらい」と「こわい」」展。
江戸時代のわらいとこわいが裏返しになった価値観があらわになるように春画と妖怪画が混ぜこぜで展示されている。
物語と物語のパロディという要素が強いものが多かった。
見ていくと、ふふっとなってしまうセレクトはなんか細見らしいと感じた。
そんな行ったことあるわけではないけれど。
春画復刻プロジェクトの映像を見て、毛のリアリティて大事だったのか、とへんな納得をした。

細見を出たときはかなり暗くなっていた。
四条に戻って好きなお店でちょっと奮発してカフェ飯でもと思っていたが、わりと人気のある店なので入れなかったらいやだな~と、結局大戸屋に入ってしまった。
サバの塩焼き定食を食べて帰宅。