雲谷等顔展と山口散歩

雲谷等顔展 美術館・博物館

今年の秋は福岡で見たい特別展があり、福岡まで行くなら山口にも寄れないことはないなとあれこれ計画を立てて旅行に出かけた。

山口での目的は、県立美術館の「雲谷等顔」展。
朝早くに大阪をのぞみで出発し、新山口駅で普通電車に乗り換えて山口駅へ移動。駅前のお店でレンタサイクルを借りた。
雲谷派という言葉も最近まで知らなかったくらい絵にはうといのだが、今年のお正月に京都国立博物館で見た雲谷等顔の1枚の群仙図屏風にどうしようもなく惹かれてしまい、秋に山口で没後400年の特別展が開催されると知って行くことを決めた。

雲谷等顔は桃山時代の画家で、狩野派で学んだ後、毛利輝元のお抱え絵師となって活躍し、雪舟の「四季山水図巻」と雪舟の旧居雲谷庵を与えられ雪舟流の継承者に指名され、雲谷派の祖となったそう。
雪舟流といいつつ、あまり雪舟のフォロワーって感じはしないなあ(そんなに雪舟を見たことがあるわけでもないけど)と思いつつ見ていたら、雪舟の流派だけでなく、狩野派で学んだことと、京都で著名な禅僧とのネットワークがあり、お寺さんが所有する中国の絵画を見て学習する機会があったことを受けて、独自の画風を創出したと書かれていて、なるほどーと思った。
ここに来るきっかけになった群仙図屏風にも再会したし、真体の山水画もボストン美術館からの里帰り作品も含めてたっぷり見て、時代ごとに少し描き方が整理されたり変化している様子もよく分かった。
雲谷派の作品ということで、弟子の絵もあり、特に岩国の吉川家のお抱え絵師になったという斎藤等順が好きだった。
見ていく中で最も惹かれたのは、瀟湘八景図など、草体の山水画だった。奔放に見える筆の動きと墨の表現で表されたそれ、特に山水図巻の、上下の枠を悠々と超えていくスケール感が好き。

山口県立美術館での等顔の回顧展は今回が2回めらしい。前回は1984年の「雲谷等顔と桃山時代」展で、それを担当した方が今は京都国立博物館の特任研究員だということを、図録を読んで知った。
京都で見て大きな印象を受けた「海北友松」展も担当されていて、正月に見た群仙図屏風もあわせて、自分が今まで見てきたもののつながりの面白さを改めて感じた。

外に出て、ランチはCHEERS!というカフェで。

CHEERS!のランチ

おいしい野菜のカラフルなサラダというだけで元気が出てくる。

自転車の返却時間を考えると、このあと動き回れるのは3時間程度。
観光マップを見てどうまわるか検討して出発。
まず向かったのは、3.4kmほど離れたところにある常栄寺。最後が上り坂で息が切れた。

常栄寺山門

ここには本堂から見て北側に雪舟庭が、南側に重森三玲の庭がある。本堂にお参りしてまずは雪舟庭から拝見。

常栄寺雪舟庭

雪舟庭は、ぱっと見るとどこに視点を置いたらいいのか戸惑う。
手前は枯山水、奥は回遊して池泉中心と画面を切り取るようにして見るらしい。

常栄寺雪舟庭

こうして見ていると、以前九州旅行の時に雪舟作庭という旧亀石坊庭園跡を見て、その時はよくわからない…と思ったけれど、今回こちらの庭を見たことで、あっ、この感じ確かに似てるなと思えた。
山口県立美術館の常設で、修理された雪舟の山水図巻を展示していて、それを所持していた人が一部分を切り取って軸装していたと説明が書かれていたけれど、雪舟の絵も庭もいろんな要素があり世界の広がりがまずあって、そこから画面を切り取って見るということに共通点を感じた。

それに対して重森三玲の波紋が広がっていくような「南溟庭」。

常栄寺重森三玲の南溟庭
常栄寺重森三玲の南溟庭

ここで庭を見てぼーっと座っていたり回遊したりしたい気持ちだったけれど、他に見たいものがあったのでしぶしぶ出発。

西に走ってトンネルを抜けたところに雪舟のアトリエで雲谷等顔が受け継いだ雲谷庵があり、寄ってみた。

雲谷庵跡入り口

住宅の隣の細い道を上がっていったところに明治時代に復元?されたという建物が建っている。

復元された雲谷庵

一部に室町時代の部材も残されているらしい。
奥のあの柱とかがそうなのかな…と思いつつ。

雲谷庵跡内部

特に何があるというわけでもないが、この場所で雪舟が絵を描いていたのかと。
ここからこれから向かう瑠璃光寺の五重塔が小さく見えた。

簡単な地図を見比べつつ、瑠璃光寺へ。

瑠璃光寺五重塔

国宝五重塔はさすがの美しさだった。
ここに来たら観光バスが停まりけっこう人がいた。お参りはなんとかしたけれど資料館は今回はスルー。
若山牧水の歌碑があると書いてあったけれど、探しに行く体力が残っていなかった。

瑠璃光寺五重塔

帰る前に最後に寄ったのは、大正5年竣工の重要文化財の旧山口県庁舎。
設計は妻木頼黄指導のもと、武田五一、大熊喜邦などが担当しているそう。

旧山口県庁舎

外観だけでも見られればと思っていたら、県政資料館として開放されていたので中に入ってきた。
複数の人が担当しているせいなのか、部屋ごとに意匠が違っている。

県政資料館の広間
県政資料館の部屋
県政資料館の暖炉のある部屋
県政資料館内部装飾

部屋ごとにかなり興奮してしまった。

他のお寺やお店などはあまり寄れなかったけれど、アーケードを通ったらステンドグラスが飾られていたりと街にもいろいろと見どころがあり、山口に泊まりにしてもうちょっと時間をかけてゆっくりしてもよかったかな~と思いつつ、なんとか夕方に駅前に戻りレンタサイクルを返却。
久しぶりの自転車で、本当に足がガッタガタになっていた。

新山口に出て新幹線に乗り換え、この日は博多泊。
へろへろになりつつもせっかくの旅の夜なので、ブックカフェ巡りなどして晩ごはんにゴマサバ丼を食べた。

ごまさば丼