根来寺展と和歌山県立博物館「和歌山の文化財を守る」

根来寺 美術館・博物館

岩出市民俗資料館の「根来寺と葛城修験」と和歌山県立博物館に行ってきました。
根来寺の公式サイトで事前にアクセスを調べたのですが、JRの駅からのバスの本数がとても少ない。1、2時間に1本という感じ。
13:30からの和歌山県博のミュージアムトークに間に合うよう和歌山駅に行きたかったので、逆算してかなり早めの時間に出発することにしました。
朝5時半に起床。
JR紀州路快速でまずは和泉砂川駅へ。和歌山バスに乗り根来寺バス停で降りて、9時の開館まで10分ほど待ちました。

岩出市民俗資料館の常設は根来寺の歴史が中心でした。
「根来寺と葛城修験」の展示は伽藍古絵図に峰入りの道を見たり、豊福寺鎮守遷宮祭文に記述を見たり。それから根来寺と和泉国、七宝瀧寺との関係が分かる資料など。
こうして見ると、中世には隆盛を誇り積極的に山伏を受け入れていた時もあるという根来寺なのに、ほんっとに修験の資料や遺品ってないんだな~という実感があります。宗教的な立ち位置だけでなく、一大勢力であったための政治的なあれこれもあって、その複雑さの一端が分かりました。
それはそれとして、展示資料に参考資料の一覧がついていて、今後これを探そうという参考になりました。

資料館を出て、せっかくなので根来寺拝観。

根来寺多宝塔
根来寺大伝法堂と多宝塔

朝早めの時間だったからか、紅葉にはまだ早いからか、人も少なく堪能しました。大伝法堂も多宝塔も庭園も独り占めとか贅沢すぎる。
聖天堂で聖天尊に向けて大根が左右に1本ずつ、足の方を向けて供えられてるのを見て、こういう供え方なんだ…と思ったり。
そういえば根来寺に来るのは2012年以来なんだけど、その時に頂いた大聖歓喜天の護符をずっと大事に財布に入れてます。

根来寺を池から眺める

境内は参拝で歩き回る範囲は綺麗でしたが、奥の方は台風による倒木があったようでした。

お寺を出て近くにあるねごろ歴史の丘という道の駅へ。
この隣に重要文化財の一乗閣、旧和歌山県議会議事堂が移築されていて、現存する木造和風建築の議事堂としては、日本最古のものなんだそうです。

旧和歌山県議会議事堂

根来寺で会った方にも立ち寄るように勧められていたけど、移動時間が読めなかったのでこの日は外観だけ。
道の駅でめはり寿司を買い、ぶらぶらと大門の方へ歩きました。

根来寺大門

隆盛を誇った宗教都市が、今はその面影もない。

根来忍者の顔出しパネル

根来忍者の顔出しパネルを発見した。

岩出図書館のバス停でバスを待つ間にめはり寿司を摂取。

めはり寿司

11:13発のバスに乗り、岩出駅へ。
JR和歌山線で和歌山駅に行き、ミュージアムトークが始まる前のちょうどいい時間に県立博物館に着くことができました。

「和歌山の文化財を守る」展。
和歌山県内で多発する仏像盗難の実態。展示は盗まれて、市場に流されて取り戻された像、それから盗難されて戻ってはきたものの、元々どこにあったのか、どこから盗まれたのか分からず、博物館で管理しているもの。
被害の実態を広く知らせるため、また被害を受けた文化財の情報を求めるために展示は撮影可、SNSへのアップも推奨されていました。

和歌山で多発した盗難事件の犯人は、一般的に芸術的価値や市場価値があるものを盗むわけではなく、盗みやすい場所にあるものを根こそぎ、しかも文化財が破損するのも構わずに乱暴に奪って行くということ。しかも売っても二束三文だというのに、それを繰り返していたということ。

関西に引っ越してきて、地元と比較すると、道端やそこかしこに祠やお地蔵さんがあって、綺麗に掃除され、花やなんかをお供えしてあるのをあちこちで見かけます。
そんなふうにその地域で、集落で、祖父母の代、曽祖父母の代、そのもっと前から、もしかしたら100年、200年とずっとそこにあったかもしれない像が簡単に失われてしまうことに強い憤りを覚えました。
守らなければ、今後もそこにあり続ける保証はないということ。
神仏に手をかけたら罰が当たる、そんな精神的な歯止めももう効かない現在に、それを守るにはどうすればいいのか。

話を聞いていて、高齢化、過疎化が進む集落での防犯対策の難しさと共に、盗品を流通させない仕組みも必要になっていると感じました。買い手がいるから盗みを続けるわけで、盗品の流通に手を出したら損をするという仕組みが欲しいよなあ…法律的にも。警察も頑張ってほしい。

それから、自分達の住む地域に今ある文化財を調査・記録することの大切さ。
和歌山の事例でも、調査記録されたから、オークションサイトなどで出品に気づくことができ、取り戻せたということがあるそう。

展示は盗難に遭った文化財の他に、和歌山県立博物館が取り組んでいる3Dプリンタで製作された像が、元となった像と並べて展示されていた。
手探りで作製されたという初期のものは、ぱっと見で解像度が低く感じ、まさに試行錯誤の手探り状態だったけれど、だんだん技術が高くなっていて、出来栄えに驚きました。

初期につくられたもの

3Dプリンタで製作された像と比較

その後

3Dプリンタで製作された像と比較

それから修理された文化財ということで、繍仏や立派な風神など。

ミュージアムトークの中で、仏像が盗まれて、来歴が分からなくなってしまうことは、仏像の尊厳も村のアイデンティティも失われてしまうことという言葉がありました。
地域で大切にされてきた文化財には市場価値とは別の価値があること、それはこれまでの展覧会で地域の史料からいきいきと歴史を描き出されるのを見てきた和歌山県博だからこそ説得力がありました。

あとは、いいなーと思った仏像の写真を撮らせてもらってきた。

紀の川市円福寺の愛染明王の立像

紀の川市円福寺の愛染明王の立像。愛染明王は坐像が多いので珍しく思った。

海南市海雲寺の釈迦如来坐像及び迦葉・阿難立像

海南市海雲寺の釈迦如来坐像及び迦葉・阿難立像。惚れ惚れした。光背もステキ。

粉河寺の風神像

修理された粉河寺の風神像。

問題提起しつつも、展示は重いばかりでなく、いいなあと思うような仏像やちょっと珍しい尊容とか、仏像好きにとっては見応えのあるもので、この展示のなんというかバランス感覚素晴らしいと思います。
見終わった時に、前向きになる展覧会でした。