GW突入直前に中之島美術館「佐伯祐三」「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」、中之島香雪美術館「修理のあとにエトセトラ」展に行ってきました。
午前中に歯医者の定期検診を済ませ、当初は香雪を見て絵金展に行くつもりで肥後橋に移動し、なか卯で先にお昼。
そこで中之島香雪美術館がちょうど夜間開館の日だったと知る。
じゃあ香雪を後にすればよかったかなと思いつつ、フェスティバルタワーのエスカレーターを上がったところで、窓から錦橋と三井住友銀行大阪本店が見えるのに気がついて、ここからこんなふうに見えるんだ~と眺めているうちに、やっぱり今日は中之島の日にしよう!と気が変わりました。
元々中之島美術館の展覧会も時間が十分取れる後日行こうと思っていたので、エスカレーターをそのまま降りて中之島美術館に向かいました。
メンバーシップ会員なのでスマホでチケット準備。
「佐伯祐三」展から。
中之島美術館の開館記念展でも巻頭が佐伯祐三だったことから、中之島にとって特別な作家の一人かなと思います。
あちこちの美術館でこれまでも何点か見たことはありますが、今回は佐伯の長くはない制作期間を日本(東京と大阪)での作品、1回めのパリ、2回めのパリ、モランへの写生旅行、そしてエピローグと分けていて、各期の作風の変化がよくわかりました。
東京美術学校での卒業制作が展示されているのを見て、ちょうど同時期に東京藝大で「買上展」(首席の作品が買上げとなるそう)をやっていたので、こっち(大阪)にあるということはお買上げにはならなかったかーと思ったり。
その頃は中村彝の影響があって……という説明があり、ちょうど今年大原と東京近美の「重要文化財の秘密」展などで立て続けに中村彝の作品を見たばかりで印象に残っていたので、なるほどと思える部分があり、タイミングよかったです。
ほとんどの作品が撮影可能だったこともあり、特に好きだと思った絵の写真を何枚か撮らせてもらいました。
海の絵がかなり好きでした。この色。
あと静物画で白の勢いのある線で花を表現した絵。
佐伯祐三の白の使い方が特に好きなのかも。
パリでの絵を見てしまうと日本の絵は少し画面に寂しさを感じてしまいますが、電柱のある風景も、滞船もけっこう好きでした。
絵の前を歩いているときはすーっと見ていってしまったのですが、一通り見てからソファに座って改めて俯瞰で見たときに、あっなんかめっちゃ好きと思ったこれ。
パリの絵は1回めのヴラマンク怒られ事件発生からの模索期間はあまり好みでなく……しかしヴラマンク、ユトリロを経てこうなっていったというのがよくわかりました。
2回めのパリ訪問の直後がまさに脂が乗っている感じがします。
同じ場所を少し違った角度から描いた絵があったりして、見比べられるのも楽しい。
しかし次第に、速筆を超えて描き急いでいるような印象が強くなっていきます。
健康であったなら、ここから先どんな絵を描くようになっていったのかな。
かなりたくさんの作品が見られたし、これまで見たことがなかった人物画も魅力がありました。
あと印象に残ったのは、どの絵も額がとにかく豪華なこと。
それから絵を展示する壁の色が強くて展覧会場では目が引きずられるなあという印象があったのですが、あとで撮らせてもらった写真を見るとどの時期のものか一目瞭然なので、良い面もあるなと思いました。
続いて「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」展。
入り口で折りたたまれたリーフレットとペグシルと、ひとつの質問を渡されて入場。
「この作品はアートか?デザインか?」
それらをたよりにして見ていきます。
聞かれたからには回答するために自分のなかに基準がなければならんだろうと、とりあえず入場時点ではなんらかの製品であればデザイン、ただ鑑賞するものであればアートと自分の中で定義して突入。
最初に目に入ってきたのは「恋する美術だ。」の文字。
なんじゃあ?? 心の声が出そうになる。これはアートorデザイン?いやまあ存在や作品は知っていたけど改めて聞かれると……一旦保留。
アートかデザインか、完全に区別してしまうわけではなくその間にグラデーションがあり、だいたいこのへん、と手元の紙にチェックしておいてその結果を展示室内の端末に入力していくのだが。
たとえば椅子や家電は、デザインだ。それは迷いようがない。
村野藤吾のスワンチェアだーかわいいですね。
実用に供することができるものを「デザイン」とすると。
では草間彌生の椅子は?やわらかそうななにかがびょんびょん生えているやつ。
うーーーーーーーーん、座ることが可能かどうかでいえば、座れなくはなさそう。
可能だとしてもあれを尻の下に敷いて座る気は全くおきないが……この、ここに座ることはできないという気を起こさせる草間彌生の椅子を「アート」とするなら、自分の考えを微修正しないといけない。
では、紙製に見えるこれは……おおむね椅子の形状を成しているようだが、座ったらばりばりーといきそうなこれは?
展示室内に「正解」が示されているわけではない。
こんなふうに、ちょっとずつ「これどうなん?」と変化球が飛んできて、自問自答を続けることになり、かなり面白い鑑賞体験だった。
ポスターはおおむねデザインだけれど、横尾忠則の宝塚のとかすごいのが出てきたな、宇野亞喜良と並んでるのいいな……とか、石岡瑛子は私の中でアート感があるんだよな、なぜだろう……とか、田中一光の「第八回産経観世能」ポスターがめちゃくちゃかっこよかったとか。
荒川修作のめちゃくちゃでっかいのがあったり、靉嘔の作品をたぶん初めて見て、この名前を奈良原一高のエッセイ集で覚えていたので、こんな作品を作ってたんだと思ったり。
同じKDDIのプロダクトでも、名和晃平はちょっとアートよりに見えて草間彌生はちょっとデザインよりに見える。
草間彌生の水玉の方が自分の中で記号化が進んでるってことなのかなーと思ったり。
赤瀬川原平の大日本零円札。
本物の主張がつよすぎていっそ笑っちゃう。
君はアートなの?
デザインなの?
あと、4階は展示室をつなぐ外が見える休憩室に出られるんだけど、そこにイサム・ノグチがあったのがよかった。
図録がファイル状なのもちょっとよいんよね。気になる作品のところだけつまみ読み。
最後の部屋で、お客さんたちが入力したこれはアートよりか、デザインよりかというのの集計が見られて、作品ごとだったり、作品のジャンル別、年代別などの数字も出ていて面白かったです。
この参加型の仕掛けがなくても十分楽しめる展示だと思うけれど、この参加のために今まで考えたことがなかったことをたくさん考えました。
中之島美術館を出て、ダイビルの丸福珈琲に寄って休憩。
糖分補給して、夜間開館の中之島香雪美術館へ行く。
「修理のあとにエトセトラ」展。
所蔵品のうち修理を終えた約30件を展示ということで、作品とともにそれが修理前にどういう状態だったか、どういう考えでどういう処置を施されたのかがくわしくわかる展示になっていました。
裏打ち紙の除去作業、やってみたい……。
今回は全作品撮影可能だったので、またいくつか撮らせてもらってきました。
長谷川等伯の柳橋水車図。
重要文化財薬師如来立像。
右からと左からで袖の感じがけっこう違う。この衣どうなってるんだろう?
あと鳥文斎栄之がとてもよかった。
キャンバスに描かれた油絵としては川口軌外の柘榴が展示されていた。
川口軌外は佐伯祐三がパリにいたとき隣に住んでいた画家で、高い人形を買ったときに借金したとか。
この日、佐伯祐三展では朝日新聞社所蔵の肥後橋風景(当時の大阪本社が描かれている)や新聞屋が展示されていて、香雪美術館ではこれが展示されているのがさりげない中之島コラボに見えて、ちょっとふふっとなった。
展示の中で、村山龍平は佐竹本三十六歌仙絵巻の分割からは距離をおいていたという話があったのが印象に残ったのでメモ。
香雪のコレクションを蒐集した村山龍平の文化財に対する考えが少しわかるような展示でした。