夏季講座と「醍醐寺のすべて」展2回目

美術館・博物館

奈良国立博物館の夏季講座に参加してきました。
歴史の授業が苦手で高校生の時は日本史も世界史もひどい点数だったのに、博物館巡りが趣味になって、ベースになる知識の薄さに気がついて、自発的に講座に申し込むことになるとはなー。
家族の許しが出たので、2日めは奈良に泊まって、講座が終わった後で夕暮れ時の東大寺を歩きまわり、法華堂でちょうど1人になって堪能するとか、贅沢な時間を過ごしてきました。

講座は「醍醐寺と南都の密教」という題で、夏の特別展「醍醐寺のすべて」の理解を深めるものと、どうして京都のお寺の特別展を奈良でやるのかというところから、醍醐寺と南都の関わりに焦点を当てたもので、現在の醍醐寺百三世座主のお話から始まり、建築、絵画、仏像、文書など醍醐寺での調査に携わっている先生方と奈良博の学芸員さんの計9コマ。

さすがに3日間の濃い講義をまとめるのは手に余るので、講座を踏まえて2度目の「醍醐寺のすべて」展を見て印象に残った感想を中心に、簡単ですが学んだことを書いてみたいと思います。

醍醐寺の開祖、聖宝理源大師は832年、讃岐の本島生まれ。
空海の実弟で高弟の真雅の弟子になり、東大寺で得度出家。
醍醐寺の開創は874年、貞観16年。
平安前期のこの貞観ってどんな時代だったかっていうと、富士山を始め各地で噴火や地震が起こり、東日本大震災で引き合いに出されて名前を覚えた貞観地震とか、大きな災害が立て続けに起きた時代でした。
最初は笠取山の祠に自分で彫った准胝観音と如意輪観音を納めた私寺だったそうですが、醍醐天皇が帰依して御願寺として薬師堂、五大堂ができたのが913年。
醍醐天皇が、醍醐寺にちなんで醍醐天皇って後に呼ばれるようになったってのも初めて知りました。
醍醐天皇は…古今和歌集を作らせたっていうのと、菅原道真を太宰府に左遷した天皇っていううっすらした記憶。
まあなんていうか、現世利益っていうか、新しい宗教、それも実効性があるものが求められていた時代ですね~。
実際、祈祷など実践的なお寺さん(門跡)、醍醐寺や仁和寺、大覚寺などが拡大していったのと逆に、教義理論のお寺さん(道場)である東寺や高野山などは中世には衰退を免れなかったそうです。

以降醍醐寺は、天皇や武家の権力者の御持僧を勤めたり祈祷を行ったり、世俗権力と密接な関係を持ってきたわけですけど、何人かの先生の話に共通して出てきたのは、各時代に寺にとって大きな功績を残した座主がいて、それが現在の醍醐寺に繋がっているということで、名前が上がったのは主に3人。
足利尊氏に仕えた賢俊、足利義満、義持、義教と3代に重用され黒衣の宰相と呼ばれた満済、それから秀吉の醍醐の花見の時の、義演。

特別展の後期では、賢俊が尊氏に付き従って戦場へ行くことの苦悩を弟子に綴った手紙や、その賢俊が亡くなって四十九日に尊氏が書写した理趣経が展示されていて、これがまたあまりうまい字じゃないんだけど1字1字丁寧に書かれていて、これだけの字を書くには切実に悼む気持ちがないとできないことだなっていうのがひしひしと伝わってきます。
それから後期は崇徳天皇が御持僧を命じる綸旨があって、おおうこれが崇徳天皇の直筆…。
歴史上の人物の一面がありありと伝わってくる一次資料が豊富にあるという凄さが改めて実感できました。

講座の中でも面白かったのが「醍醐寺の舎利信仰と南都」と題された宝珠信仰に関する講座で、展示の中にそういえば醍醐寺のじゃない舎利容器があった謎が解けました。
醍醐寺で学んだ僧が南都で展開した舎利信仰っていう資料展示だったんですね。
東大寺の重源の、大仏にこめられた舎利は能作性宝珠(人工の宝珠)だったっていう話や、西大寺の叡尊、それから唐招提寺の国宝金亀舎利塔も実範が作らせたという木製の亀の舎利塔が元になっているのではないかとかそういう話がいろいろ。

そういえば博物館で理源大師坐像の調査をしたら、中に五輪塔がっていうニュースをこないだ見ましたが、その調査結果がもうちょっと早かったら展示に絡めて面白かったんじゃ…と思いました。

醍醐寺といえば修験道の当山派なわけですが、南の熊野を拠点とする勢力が天台宗園城寺の管轄下となり、聖護院門跡を棟梁として本山派が成立して、一方で大和の諸社寺の修験者によって大峰山小篠に本部を置く当山派が形成されたこと、当山派は聖宝を派祖と仰いでいたこと。それから近世に醍醐寺三宝院門跡が当山派の棟梁となった経緯とかそのへんの資料が学べてよく分かりました。
餅飯殿の商店街のスーパーのところに祠があって、そこに聖宝のことがちょっと書いてあるそうです。

絵画や仏像の話も色々あったんですが、まとめるのがきりがない……快慶の弥勒菩薩坐像は義演が下醍醐の菩提寺から三宝院に移した時に台座を作ったそうで、桃山時代の工芸の逸品だそうです。蒔絵とか、蓮華に夜光貝で宝珠とか。
1回目は台座まで目がいってなかったのでじっくり拝見してきました。

あとは、信海筆の不動明王図像をはじめとする白描図像は、研究のための描写を超えて、絵として面白みがあるというか惹かれました。

今回の講座の中で、御七日の御修法や宝珠信仰のお話が出て、京都で見た「国宝十二天像と密教法会の世界」や室生寺で聞いた講話とちょっと知識が繋がりました。
また近いうちに醍醐寺を訪れてみようと思います。